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ました。大原くんは、売れっ子小百合にどうにも手持ち無沙汰で、そこは浮世の義理、嫌な顔は少しも見せずに踊りながら、優しいお世辞まで言ってくれましたので、私はかあっと上がってしまって、お返事はしどろもどろ、ステップはよれよれ、汗だらだら。相手の靴を踏んずけてよろめいて、こらあかんわ。「大原くん、わ、私、ちょっとお化粧室へ」と、逃げ出しました。
お化粧直しに余念のない女の子で満杯むんむんの洗面所からやっと会場に戻ると、いとこたちの一群に、藤田徹が交じっておりました。スーツにタイの徹は、大人に見えました。
「徹くん、硬派がダンパとは珍しい。熱でもあるのん?」と私がからかうと、徹は、「家から近いさかい、ちょっと来ただけや」とぶすっと答えておりました。
徹と私は相変わらずの三本立て映画館通い。学食のラーメン。張り込んでもトンカツ定食。ジャズ喫茶の珈琲は高いから割り勘。合宿みやげはこけし。てなびんぼ臭い、清らかな交際のままで、私は時々、「あの大階段の直感は何やったんやろ」と思うことがございました。
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