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仕立てのいい長袖の白いブラウス、紺のミニ・スカートのきれいな足、紺のハイ・ヒールに、「きれいよ、小百合」と、上級生が香水臭いエールを送ります。女子大ならではの、へなへなした決起集会ではございます。
「ありがとう、先輩」と小百合はきれいな手で投げキスを贈る。会長はこういうバタくさい仕種が嫌になるほどさまになる。女の子たちは思わず、ほーっとため息をつきます。のびやかなヨーロッパの気風に成長した中島小百合には、微塵もコンプレックスがない。
片や私には、冠婚葬祭の親族一同の語り草がございます。
「由美子もなあ、今は猫かぶってるけどな、根は気ぃのきつい子ぉや」
「ほんま。恐ろしいほど癇の強い子どしたなあ」
「そうどす。三つの時や。岡崎動物園の虎の檻の前で根っころがって、二時間、わあわあ泣きましたやんか」
「ほんま、あれだけは忘れられへんわ」
「しゃあないさかい放っといて、みんなでうどん喰うてたなあ」
「あの子はうちの子ぉとちゃう、ちゅう顔してましたなあ」
「虎が、感心してじいっと見たはった」
「そや、さぶい日ぃどしたわ。オーバー着てたもん」
「そやけど何で、真冬に動物園なんか行きましたんやろな。岡崎の辺は疎水流れてるし、山近いさかい、風つめたいわ。夏は涼しいけどな」
「子供小さかった時は、醍醐の花見も敦賀の海水浴も、親戚中で毎年よう行ったな」
「由美子は、いちばん手ぇかかりましたなあ」
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