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「私達が子供のころの日本は、本当に貧しい国でした。比較的恵まれた自分たちへの後ろめたさを、学生運動という形でしか世に問えない、いたたまれない気持ちは私にも理解は出来ます。でも人にはそれぞれの哲学があるのよ。それはお互いに尊重しあうのが文化国家よ。死ぬ気でお勉強してる人の邪魔することなんか、断じて許さないわ。今後一切、学外活動家の出入りは禁止です」
場内はしんと静まり返りました。
「男の子たちの戦争ごっこに巻き込まれるのはご免よ。今は過渡期よ。戦後の混乱の終結の時代なのよ。そこのヘルメット集団、強烈な野次をありがとう。しかし、家政科の村上さん、あなた、二年生では飛びっきりの美人のくせして、何でそんな汚い変装してるのよ。そのヘルメット、センス悪い。ぜんぜん似合わないわ。ナンセンス? はいはい。あなたたちの大義は恋人のためなんでしょう。彼が民青ならそれ、彼が日寄るなら右翼にでもついて行くのね。ナンセンス?・・・ほかの言葉、知らないのかよ。ま、彼と共にしっかりおやりなさい。大義に死になさい。骨は拾ってあげます」
壇上を降りた会長は、長居は無用とばかりにさっさと消えて行きました。後にはあらかじめの根回しで、副会長がただちに壇上にかけ上がって、一塊のヘルメットにマイクを預けて、しばらくは「我々はあ、我々のお」が、えんえんと続くことになりました。
私はふと、こういう集会の時はいつも体中に漲る奇妙な情熱を感じて、思わず立ち上がりそうになりました。
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