FREE AS A BIRD

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のちに莫大な結納金でお迎えのよう子姫は、おそろしいようなブスであらせられたそうでございますが、この姫のために立てられた洋館は、在留外国人の度肝を抜くようなもので、戦後は神戸市の文化財に指定されながら、後の阪神大震災で跡形もなく崩壊いたしましたのは、つくづく残念なことでございます。 阪神間とは、広いようで、狭い世間でございます。 「これ、由美子。もう朝え」  伯父の声が襖の向こうから聞えましたのは、鑑別所初日のまだ真夜中でございました。 庭灯の下で皇居の方角に三拝して、簡単な体操。それからお仏壇に一礼して、伯父は読経を始めました。朝ご飯の用意に立ち上がると、「ここにいなさい」と言われました。お経の間は、ぼーっと鶏箔の小さな背中を見ておりました。結局一日目の朝ご飯は、おやつに用意していた菓子パンとインスタント・コーヒーで間に合わせましたが、お昼は早めにご飯を炊いて、小芋の味噌汁、胡瓜とハモの皮のざくざく、七輪の炭であぶった干しかれい、お豆腐と卵の空也蒸し、母が持たせてくれた塩昆布と糠漬けでお膳を整えて、「伯父様、お昼でございます」と恐る恐るアトリエに呼びに行くと、伯父は空腹だったらしくてすぐにまいりました。ご飯を二膳お代わりして、みんなきれいに空にしてあったので、ほっとしたものでございました。     
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