FREE AS A BIRD

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「由美子さんの人生観て、仏教でも、芥川龍之介自殺時の枕頭の書物でも、谷口雅春でも、もちろんマーク・トウェインでもさらさらないのよね。あなたの人生を左右するのは町内会のおっさん連よ。並びの傘屋、向かいの酒屋と米屋、右隣の金加工屋、とりわけて宇治の伯父さまよ。そう、あなたの教義は、世間体よ」 「あたしは、ドラえもんのタイムマシンが欲しいん」 「過去に戻って、どうするの」 「戻っても、やっぱり、同じこと、するのやろな」 「でしょうね。人はみんな、上田まさしの漫画みたく、椰子の無人島で一人ぼっちで暮らしているのでない限りは、人のしがらみの天網恢恢の中にいるんだものね」 「うん」 「モヘンジョダロだろうがオスロだろうが、宮殿だろうが刑務所だろうが、人間てみんな一日に三回ご飯食べるのよ。その合間に、人生は勝手に流れて行くのよ。そうよ、卵のおじやも、食べるのよ」 「・・・・・・・・・」 「泣きなさい、好きなだけ泣きなさい。映画や小説とは違って、生きている人間には、終わりの章なんてないんだから。何があろうと生きて行くしかないんだから」 「・・・・・・」 「それを、きっと運命と言うのよ。あたしはそう思う」 「・・・・・・・・」 「運命というのは、まことに便利な言葉よ。「開け胡麻」よ」 「・・・何、それ」 「生きているのが辛くなる時にこの言葉をつぶやくと、少しは慰めになるよ」 「そう?」 「びしょ濡れの体を、さばさば乾いたタオルで、くるんだみたいに」 「・・・・覚えとくわ」     
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