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「亭主の女遊びにいちいち悋気してたら、やってられへんわ」と、これは高倉通りのローソク屋の伯母。彼女は大家内に嫁いで、いまでも達者な舅と姑に仕えております。「うちの嫁は女の子しかよう産みまへんのや、お恥ずかしい」と折につけていびる舅、金持ちのくせに嫁にはびた一文自由にさせずに細かい所帯を要求する姑の間で、伯母は元来の陽気な性格が「嫁入りして歪んでしもたわ」と笑いながらも、亭主のすさまじいばかりの女遊びにもつらあとしております。ローソク屋の亭主には、よそにもう成人している男の子があるのは親戚中が知っていて、亭主はその女のところへほとんど入り浸りながら、「あんな立派なぼんがおいやしたら、そらあれどすわなあ」とまわりは誰も文句は言いませんし、伯母も愚痴は金輪際申しません。彼女は親戚中の女の鏡だからでございます。
ローソク屋の三女の伊沙子は、このぼんと同じ大学でございます。伊沙子は時々私に申します。
「なあ、由美子ちゃん、お母さんには悪いけど、私は敏克が可愛いねん。弟て言うても二月違いやし、学校では苗字同じや言うだけで、姉弟とは誰も知らんけど、敏克は学校で時々会うたら、『姉ちゃん』て声かけてくれるのん。・・・可愛そうに、認知はしてあるけど日陰の子で育って、苦労したやろと思う。あたしら姉妹は大事に育てられたのに。そらまあ、どうせローソク屋は弟が継ぐのやろうけれど、大きい姉ちゃんは、お母さんに同情してるさかい、敏克母子が嫌いやの。『絶対あの子は家に入れへん。あたしが養子取るねん』てえらい剣幕やの。ほかの姉妹は、『そんなんどうでもええ』て言うてるけど」
ローソク屋の伯父は役者みたいにしゃあっとしたいい男で、敏克はうり二つに似ております。ところが敏克の母は貧乏くさい平凡な人で、府立第一高女主席卒業の美人の本妻に優る物は微塵も見当たらないから、この長姉への同情もあって、友恵伯母にはよけいに風当たりはきつうございます。
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