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それは、冬から春への移り変わり
まだ肌寒い夜が続いていた、夜でした
我が家は、築30年は過ぎている、木造二階建ての一軒家です
古いから、私が幼い頃はよく家鳴りや、屋根を歩く鳥の足音などを怖がっていたそうですが、なんのことはない日常音にすぎず、いつしか怖がることはなくなりました
そんな我が家の2階にある寝室で、布団にもぐりこんだ母は、その日に限り寝つきが悪く、隣でぐっすりと眠っている父を恨めしく思いながら、何度も寝返りを打っていたそうです
時刻は定かではないそうですが、布団にもぐりこんだのが深夜12時頃だったそうですから、だいたい2時過ぎだったのではないか。と、母は言いっていました
そのくらいになって、ようやく睡魔が訪れ、うとうととし始めた時です
ぱたた……ぱたた……
布団の周りで、何かが走り回る音が耳に聞こえてきました
その音は次第に数を増し、何かの気配と共に、騒がしくなってきたそうです
いやだなぁ。早く眠らなくちゃ
隣にいる父は、何事もなかったかのようにすやすやと眠っています
時折このような事態に遭遇する母は、怖いと感じながらもどこか冷静に、眠ってしまえばいい。と、目をきつく閉じて深呼吸を繰り返していたそうです
ぱたた……ばたばた……どたたっ……
部屋中に響く足音は、まるで小さな生き物が遊んでいるかのように聞こえた
そう、母はいっていました
覚醒してしまう意識と、開きそうになる目をぎゅっと閉じて眠ろう。眠ってしまえ
そう、言い聞かせていたのですが……
「おや、一人気付いているよ? 賢い子だねぇ」
「目を開けちゃダメなんだよ?」
何かが顔を覗き込む気配がして、耳元で囁かれた言葉
その言葉と同時に、全身の筋肉が硬直してしまったかのように金縛りになってしまい、うごけなくなってしまったそうです
いやだ……
どうしたらいいんだろう?
隣で眠っている父は、まったく起きる気配がなく、助けを求めたくても体は動きません
暑くもない夜であったにも関わらず、母の背中は汗が伝い濡れています
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