雨の影

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雨の影

君は雨の影を見たことがあるだろうか。 僕はない。 だから僕はそれを小さい頃から探し続けている。 今日もまた雨の日だった。僕はやはり中学校から家に帰る途中、傘もささないでこの雨の影を探した。 結局見つからなかった。回り道をしたのにその「正体」をつかむことはできなかった。 キルケゴールの言う「三つの生き方」、芸術的実存、論理的実存、そして宗教的実存のうち、宗教的実存以外の二つはどれも必ず限界や儚さを痛感して絶望に至るらしい。そうして幾度の絶望を経験して、人は初めて「神」を信じるようになる。 しかし僕にとってこの「雨」と言う天候は図鑑や授業で習っても納得できない現象であり、その難解不可思議な水の動きは、僕にとって神秘的に見えた。つまるところ、雨は僕にとって「神」のそれに等しいのだ。自然科学で何もかもを解明しようとする現代社会に対するアンチテーゼ。だから僕は雨に異常なまでの関心を寄せている。 それは学友たちには理解されないのだが。 寒い、と思って家に戻る。家は相も変わらず崩れそうだった。崩れてしまえと幾度も願った。 僕は家が大嫌いだ。父親は僕が生まれる前に死んだ。母親はそれから僕を生んだ。     
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