845人が本棚に入れています
本棚に追加
篠田さんの近くに敏生の姿はなく、…ということは、今敏生は電車の中で一人になっているはずだ。それに気づいた途端、結乃の胸がドキンと跳ねた。この同じ電車に乗っている敏生を探せば、会えるに違いない。
でも、結乃の降りる駅は次だ。今から会えたとしても、挨拶くらいしかできないだろう。
吊手を握りしめて、結乃はどうしようか迷った。迷っているうちに電車は進んで、どんどん会える時間が短くなっていく。
そして……、とうとう結乃の降りる駅に到着してしまう。行動を起こせなかった軽い落胆とともに、結乃は開いたドアへと足を向ける。
……けれども、ドアから出る直前で足を止めた。目の前のドアが「プシュー」という音とともに閉まり、電車は動き始める。
――芹沢くん、電車を降りて傘がないと、困るはずだもん……。
今度こそ勇気を出そう。結乃は雨で濡れた電車の窓に映る自分を見つめ、握り棒をギュッと握って決意を固めた。
最初のコメントを投稿しよう!