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高校三年生の六月。その日は、いつもと違う感じがした。
目覚まし時計が鳴る前に、自然と目が覚めて、家を出る準備もスムーズだった。昨夜から降り続いた雨は朝になって止んでいたけれど、梅雨のこの時期、いつ雨が降り始めるか分からない。傘立てから自分の傘を取り出して、結乃は家を出た。
いつもと同じ道をたどって、最寄りのバス停に向かう。昨日と何の変りもない風景。だけど、結乃の中で何かが違っていた。何か心が真っ新になったような……。バス停の脇に咲いている赤紫の紫陽花の上に宿る水滴も、一際輝いているように感じた。
いつもよりも一本早いバスに乗れた。梅雨時期はいつも満員のバスも、今日はとても空いていた。結乃の通う高校は、ここからバスで15分ほど。今日はもみくちゃにされることなく、シートに座って外の風景を見る余裕もある。そうしていると、あっという間に降りるバス停に到着してしまった。
バスを降りたら、また霧雨が降り始めた。ここから高校までは、坂道を300メートルほど登っていく。この坂道の脇にも紫陽花が連なるように植えられていて、結乃のお気に入りの場所のひとつだった。
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