雨の日の思い出

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一緒にバスを降りた生徒たちは足早に学校へと向かったが、結乃は傘を開いてゆっくりと歩き始める。 色とりどりの紫陽花の花を眺めながら、その花の一つひとつを愛おしむ。明るい日差しの中に咲いているそれよりも、こうやって雨に濡れている方が、微妙な色の変化も鮮やかに感じられて、いっそう綺麗に見えた。 その時、一人の男子生徒が結乃の脇をすり抜けて、追い越していった。その後ろ姿を一目見て、結乃の心臓がドキンと大きく反応した。 その後ろ姿はよく知っている。もしかして、正面から見る顔よりも、結乃の意識に深く刻まれているかもしれない。 芹沢敏生は、結乃の想い人。 二年生の冬に彼に恋をしてから、ずっと片想い中だ。彼のことは好きだと思うけれど、結乃にはその後ろ姿を見つめるだけで精一杯で、彼と知り合いになりたいとか、ましてや〝彼女〟になりたいとか思ってもいなかった。 だけど、今彼は結乃の前を歩いている。傘を持っていない彼は、その背中を霧雨に濡らしている……。 今なら、小走りすれば追いつける。追いついて、傘をさしかけてあげたら、彼は雨に濡れずに済む。そうしてあげるべきだと思っただけで、結乃の心臓がいっそう激しく脈打ち始めた。
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