雨の日の幽霊

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 美術部はまだ部活動をしていた。  今この美術室にいるのは、美術部の地多部長、鈴木、佐藤。そして俺の四人だ。 「さて、幽霊の正体が分かりました」  皆が俺の顔を呆けた顔で見ている。気にせずに続ける。 「雨の日に現れる幽霊の正体は、地多さん。あなたです」 「なんだって!?」  地多以外の皆が一斉に地多の顔を見つめる。地多は少しうつむいて黙っている。 「幽霊の正体は女装した地多さんだったんですよ。地多さんは男性にしては小柄で痩せている。特徴的な大きな眼鏡を外して、赤ら顔を隠すために濃い目の化粧をすれば、女子に見える」  そう、幽霊の顔が妙に青白く見えたのは厚化粧が原因だ。 「準備室で見つけた髪の毛、これは人工毛です。やけにツルツルしていて光沢がある。それに……」  俺はライターを取り出して髪の毛を燃やした。 「こうして燃やしても髪の毛を焼いた時の独特な匂いがしない。これは人工毛だからです」  地多は相変わらず押し黙っている。俺は説明を続ける。 「人工毛のウィッグを被り、女子の制服を着て、眼鏡を外し化粧をすれば、あなたは結構可愛い女子になる!」 「なぜ、僕だって気付いたんだい?」  地多が小さい声で尋ねてきた。 「卒業アルバムに載っていたんですよ。地多という女子が。おそらく、あなたのお姉さんですね?」 「そう。僕には三つ歳の離れた姉がいる。僕と違って派手だから、似てるとは言われないけどね」 「髪型と化粧で人は変わるもんですよ。あなたが女装したらお姉さんにそっくりだと俺は思った」  そう、そして結構好みのタイプだと。 「雨の日は美術部の活動がないんだ。だから、雨の日はこっそり独りで準備室で女装を楽しんでいたんだ。幽霊だと誤解されるとはね。ごめんね、悪気はなかったんだよ」  地多が悲しそうな声で告白した。女装は罪じゃない。別に問題はない。 「本当に女装していただけなんですか?」 「何が言いたいんだい?」  地多が肩を震わせて俺に尋ねる。明らかに地多は怯えている。
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