雨の日の幽霊

11/12

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「先程準備室で実験をしたんです。準備室の壁紙の継ぎ目を水で濡らすと糊が溶けて壁紙がめくれました。そしてヒビが出てきた。ヒビに顔を近づけて覗くと、そこから隣の空き教室が見えたんです」  そう、女装は罪じゃない。罪なのは 「あなたはノゾキをしていたんだ。雨の日は湿度が高くなる。湿った壁紙を継ぎ目から少しめくって、ヒビから隣の空き教室を使っている女子テニス部を覗いていたんだ。だから壁紙にファンデーションが付いてしまった」  罪なのはノゾキだ。 「めくれた壁紙は強めに押し付けると元のようにくっつきました。不安なら水溶性のノリを塗ればいい。あなたはこの方法で雨の日に空き教室で活動している女子テニス部を覗いていたんだ。万が一、準備室にいることがバレても女子の姿ならば、ノゾキだとは思われないでしょうからね」  力強く言い放った俺に対し、地多は力無く言葉を吐いた。 「少し訂正させてほしい。僕はバレるのが怖くて女装していたわけじゃない。女装は純然たるただの趣味だ」  より変態じゃねーか。 「それに女テニはあの教室で着替えたりはしていない。普通に筋トレをしていたり話していただけだよ」 「じゃあ何でノゾキなんか」 「僕は女の子になりたいんだ。女装して女の子が楽しそうにしているところを覗いて、僕も女子の一員になったつもりだったんだ……」  地多はエロではなく、純粋な気持ちで女子を覗いていたんだ。気持ちだけでも仲間に入った気分になりたくて、隠れて覗いていたのか。 「その気持ち、分かるぜ! 俺もよぉ、こんなゴツい体じゃなけりゃ!!」  鈴木が吠えた。 「うんうん、僕だってぇ太ってなかったら女装してみたいよぉ。可愛い女の子になってみたいよぉ」  佐藤も吠えた。 「皆、分かってくれるのかい? 気持ち悪いと思わないのかい?」  鈴木と佐藤は何も言わず地多を抱きしめた。熱い男の友情がそこにあった。  俺は正直、気持ち悪いなと思っていた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加