雨の日の幽霊

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「ここが問題の美術準備室だね」  前田が扉を開けて中に入っていく。俺も後をついていく。  美術準備室は狭い縦長の部屋で、左の壁には背の高い木製の棚が奥まで並んでいる。右の壁には額縁が無造作に立てかけられている。奥には扉があって、美術室につながっている。  これといって特徴のない部屋だ。単なる物置って雰囲気だな。 「よく見たら右側の壁だけ壁紙が貼られてるね」  前田が壁を触りながらつぶやいた。細かいところに気がつくやつだ。 「あぁ大分黄ばんでいるが、学校の壁によく似た壁紙だな」 「なんでここだけ壁紙貼ってあるんだろ?」  俺も壁紙を撫でてみる。ふと指先にボコっとした感触が伝わる。そのまま感触をなぞってみる。天井近くまで感触は続いているみたいだ。 「どうやらヒビを隠してるみたいだな。小さい壁紙を何枚か貼ってある。壁紙の継ぎ目がはっきり見えるから多分DIYだろう」  業者に任せたらもっと綺麗に壁紙を貼れるはずだ。どう見ても素人施工だ。 「ヒビって大丈夫なの? この旧校舎、崩れたりしないのかな」 「コンクリートに多少ヒビが入るくらいは問題ないらしい。見栄えが悪いんで壁紙で隠したんだろうな」  とはいえ触ってみる限り深そうなヒビだが本当に大丈夫なのかは知らない。俺は建築に詳しいわけじゃない。 「ん? 壁紙になんかついている」  壁紙の目線くらいの高さに汚れがついていた。汚れはかなり薄いオレンジ色、わかりやすく言えば肌色だ。触ってみると手に付いた。匂いを嗅いでみると独特の匂いがする。前田にも嗅がせてみる。 「これファンデーションだよー。化粧品の。女子が顔でもぶつけたのかな」  割と新しい汚れみたいだが、美術部には女子がいなかったはずだよな。誰がつけたんだろう。
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