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「そして、そんな素晴らしい命を何百万も奪ってしまう戦というものの虚しさ、惨たらしさを世間に伝えろ。お前は大けがをしたが、何とか命は繋いだのだ。お前が命拾いをしたということは、お前もまた重大な任務を帯びた人間ということだ。それを忘れるな」
そう語るあの人の声からは、単なる平和への祈りとかそんなものを超えた、もっと強烈で凄まじい執念というか、業のようなものを感じたのを覚えてる。何だか怖いような感じがしたねえ。
その後、ともかくも内地に戻ってきた僕は、あの人に言われたように、がむしゃらに生きてきた。貧乏もしたけど、それなりに楽しかった。その傍ら、あの人に言われたように、戦争の悲しさや虚しさを、こうやって自分の口で語り続けてきたんだ。優しくしてくれた恩に少しでも報いなければ、と思ったからね。
それにしても、あの人は何故、あんなにも詳しく、まるでその場に居たような臨場感で沢山の合戦の様子を語ることが出来たんだろう?
ひょっとしたら、あの人は色んな合戦の現場に、本当に居合わせていたんじゃないか……
「世の中が平和になるのをこの目で見届けるまで、この任務を続けなければいけないと思って、俺は今日まで生きてきたのだ」
思いつめたような重たい声が耳に蘇ってくる。
その一念が、あの人をずっと生かし続けてきたのだとしたら……
何年も、何十年も。
何百年も。
途方も無く長い長い時間を、ずっと一人で……
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