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居間の電気を点けて、ひとつ伸びをすると、なんだかコーヒーが飲みたくなってきたので、お湯を沸かした。普段は牛乳しか飲まない。コーヒーなんて苦いだけだ。おまけに僕は猫舌ときている。
しかし、雨の日になると、なぜだか熱いコーヒーが飲みたくなる。
ソファに腰掛け、できあがったコーヒーを啜りながら、彼女がいなくなった庭に視線を向ける。
ふと、彼女が以前言っていた言葉を思い出す。
(せっかくの雨の日なんだから、きみもどこかに出かけたらいいじゃない? 雨の日じゃなきゃ、行けないところにさ)
同じように魚になれるのならまだしも、わざわざ雨の日に出かけたいところなんてなかった。 それに僕は雨の日が嫌いだ。身体は濡れるし、憂鬱な気分になって、自分が自分じゃなくなるような気がしてくるし、それになんといっても、彼女が僕を置いて、一人どこかへ行ってしまうことに耐えられそうになかった。
いっそ雨なんて降らなければいいとさえ思っているが、魚になれることを楽しみにしている彼女の手前、そんなことは口には出せない。
僕は腕を頭の後ろで組み、ソファに横になって目を閉じた。
そもそも、どうして彼女は魚になることをあんなにも待ち望んでいるのだろう?そんなに僕を置いて、一人で街中を泳ぎ回るのが楽しいのだろうか?
こっちは一秒でも長く彼女といたいと思っているのに……。
彼女とこの家で暮らすようになって三年。もう友達以上の関係になっていると僕は思っているのだが、勝手な思い過ごしなのだろうか? 一度、この事について彼女の考えを聞いてみたいものだが、これは勇気のいる質問だし、その勇気が出る頃には、また僕らはすれ違っている……。
──そんなことを考えている間に、気付くと僕は、ソファの上で眠りに落ちてしまっていた。
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