雨の日

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それから、どれくらいの時間が経ったのだろう? ぴちゃ、ぴちゃ、という音が聞こえて目が覚めた。部屋を見まわすと、居間が青白い薄明かりに染まっていた。 しまった! もう夜が明け始めている。 僕は飛び起きると、窓の外を見た。まだ空は雲で覆われているが、雨の方はもう完全に降り止みそうだった。 ぴちゃ、ぴちゃ、という音がまた聞こえる。 急いで窓を開けると、縁側のコンクリートの踏み台の上で、まだ魚の姿をしている彼女が、苦しそうに跳ねていた。 僕は慌てて、両手で彼女をすくい上げると、そのまま風呂場へと向かった。 頼む。手遅れになんかなっていないでくれ。 洗面器に水を張り、そこへ祈るように彼女をそっと入れる。 さっきまで苦しそうにしていた彼女は、何事もなかったかのように、洗面器の中を泳ぎ始めた。 僕はほっと胸をなでおろして、その場にへたり込んだ。 「よかった……ごめんよ、僕が眠り込んでしまったせいで……」 魚の姿の彼女が返事をすることはなかった。当然だ。魚は喋られないからだ。 浴室の窓から、先程よりも強い光が差し込み始める。眩しい朝日が一人と一匹を包み込んだ。朝だ。晴れの日の朝だ。 ──気が付くと、彼女は人間に戻っていた。 「ふう……」と息を吐きだした彼女は「死んじゃうかと思ったわ」とあっけらかんとして笑った。 「ごめんね。心配かけたね」と彼女は僕の頭を優しく撫でた。 「雨が止む前に帰ってくるつもりだったのに、調子に乗って、いつもより遠くまで行ったら遅れちゃった。今度から気を付けるね」 彼女は両手を僕の両脇に入れると、軽々と僕の身体を持ち上げた。 「さあ、朝ご飯にしようね」 バスタオルで身体を拭き、着替えを終えた彼女は、いつもの皿に牛乳を注ぐと僕の目の前にそれを置いた。 僕は皿に顔を近づけて、舌を出して牛乳を舐めた。 「美味しい?」と彼女が聞くので「にゃあ」と僕は鳴いた。  
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