第一花~月夜と野に咲く花束~

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 「んー? 強いて言うなら、夜の散歩だよ。ほら、月がめっちゃ綺麗だろ? こんな夜はさー、外に出たくなるんだよね俺」  「あっそ」  美咲の目の前に音もなく現れたのは、美咲の隣のクラスにいる人気者の男子生徒、山田(・・)である。  あまりに平凡すぎる苗字に反し、山田という男子は、いつもクラスを笑顔で明るく和ませる、絶大な存在感を放つムードメーカーである。  かといって、お笑い芸人のような馬鹿げたシャレを言うようなキャラではないようだ。何気ない言葉の一つ一つが、クラスメイトを惹きつけるのだとか。  面白い存在でありながら、どこか凛とした魅力を咲かせる山田は、顔も頭も良く、スポーツ万能でもある。そのため、数多の女子が恋に落ちるという(うわさ)がある。  しかし、美咲自身は他の女子達とは違い、山田のことを「ふざけてばかりの軽薄な奴」、という風にしか捉えていなかった。  むしろ、相手にお構いなく突っ込んでいっては、その心を奪っていく。人懐っこい犬のように思わせぶりな山田の態度を、美咲は軽蔑すらしている。  そうやって甘い笑顔でノリよく、相手の領域に無遠慮に踏み込む。そうしていけば、ほとんどの女子が落ちるとでも、思っているのだろうか。  それが無性に気に喰わない。     
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