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第一、山田にはあげていけばきりがないほどに、黒い噂もごろごろと転がっていた。
「それはそうと、花宮こそ、何でこんな夜更けに外に出てんの?」
「べ、別に……。ちょっと買うものがあったから、ついでに寄っただけよ」
「こんな森の奥深くに?」
「っ……どこにいこうと、私の勝手でしょ。ただ……一人きりに、なりたかっただけ」
「ふーん。そっか。なら、安心した」
「は?」
「まさか、こんな夜更けにこんな場所で、花宮に会えるとは思わなかったからさ。
もしかして、俺と同じこと……花宮も考えてくれたんかなーって」
同じ、という言葉を山田が呟いた瞬間、美咲は不意に心臓が一瞬高鳴った。
しかし、胸の奥を打ち付けられたようなこの痛みは一体何なのか、美咲にはよくわからなかった。
自分が森に何しに来たのかを、悟られたのではないか、と一瞬動揺したからか。
それとも。
いや、まさか。いつもヘラヘラ笑ってばかりの、この男に限って。
一方、美咲の苦しい言い訳を耳にしても、相変わらず普段通りの飄々とした笑みを崩さない山田に、美咲は安堵した。
「同じって……月が、綺麗だからとか?」
「あれ? 花宮大胆だなー」
「はぁ?」
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