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「こんな夜に。俺に告白しちゃうとは」
「いっぺん、死ねば!?」
「はははっ。冗談だよ。そう怒るな~。
あ! ちなみに! 【月が綺麗ですね】っていうのは、夏目漱石の「そのくらい知っているわよ! 馬鹿にしないでっ」
やはりこいつと一緒にいると、調子を狂わされてたまらない。
鬱蒼とした暗い夜の森にいても、飄々とふざけた態度を崩さない山田に、美咲は呆れを隠せない溜息を零すと背を向けて歩き出す。
しかし、無視を決めこんだ自分の背後に、風のようにひっ付いてくる疎ましい気配を確かに感じる。美咲は、一瞬で燃え上がる火花のように、苛立ちを無性に散らしたくなった。
「って、何であんたまでついてくんのよ!?」
「まあ、そうカリカリすんなって。花宮が迷子になってないか、俺は心配なだけでさ」
「だから違うわよ! 子どもじゃないんだから! 私には、ちゃんと行くところがあるんだからねっ」
「買い物に、だっけ?」
「そうよ!」
「なら、なおさらじゃん。途中まで、俺もついていくよ」
「必要ないわよ!」
「そっか……」
森の道を早歩きで突き進んでいく美咲を、山田は後ろから軽い足取りでついてきた。
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