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ひたすら、うっとおしいとしか思わなかった美咲だが、何故か最後だけ山田の声が珍しく沈んでいるように聞こえた。
まるで母親に叱られ、置いて行かれる幼い子どものように、どこか寂し気な。
山田のことなんか、うっとおしくて、ついて来てほしくなんかないはず。
それなのに、何故私が、言いようのない罪悪感に襲われなければならないのか。
凍てつくような寂しい月夜の森を歩いているせいなのだろうか。自分の後ろを、軽い足取りで歩いている山田の存在に、何処か安堵に近い感情も覚えていた。
それなのに、それなのに。
あの時、自分は――
「花宮」
「……。」
「花宮さーん」
「……。」
「花宮ちゃーん」
「……(いらっ)」
山田に追い越されたくない一心で、ずかずかと前を歩く美咲。その後ろを歩く山田が、しきりに呼びかけてくる。
前を歩く美咲が何も話さないのが退屈なのか。それとも、実は心もとないのか、山田は美咲の名字を子犬のように連呼する。
最初は無視と無関心を決め込んでいた美咲。しかし、やはり何度も名前を連呼されるうえに、段々とふざけた呼び方に変わってくると、さすがに苛立ちを覚えてきたらしい。
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