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苛立っている美咲の気も知らずか、人懐っこい子犬のように名前をひたすら連呼する山田。とうとう美咲の堪忍袋の緒が切れた。
「花宮たーん」
「っ……」
「……花宮「だー! うっとおしい! 何度も呼……」
ふわっ
「え……?」
「やっと、振り向いてくれた」
「――。」
苛立ちが頂点に達した所で、美咲は胸に鬱積していた苛立ちをほとばしらせる勢いで、ぐりん! っと後ろを振り返った。
しかし、山田を一喝しながら勢いよく振り返った美咲の顔を、甘く優しいぬくもりがそっと触れてきたことに気付いた。
一体何が起こっているのか、と振り返った美咲の瞳を焦がしたのは。
やっと振り返ってくれたことに、ひどく満足そうな優しい表情で、瞳を細めている山田。
そして。
「なに、これ」
「‘‘花束”だよ」
「は?」
「花宮に、渡したかったんだ」
仄かな甘い香りと共に、美咲の鼻先を優しく撫でたのは、山田の整った白い手に大事そうに握られた‘‘花束”であった。
甘い花の香り、と花びらの優しいぬくもり。
すっかり毒気を抜かれた表情で、美咲は山田の花束を自然と受け取っていた。
「花束って、これ雑草ばっかりじゃん」
「ただの雑草じゃねーよ。これは立派な花だ。 だから‘‘花束”だよ」
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