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「何それ。でも……綺麗」
二人ぼっちの暗い森に差し込む淡い月の光が、美咲の手の中にある小さな‘‘花束”を照らすように、美咲の心も照らされていくような優しい想いに駆られた。
寂しい夜を照らす灯のように、心の明るくなるような黄色いたんぽぽ。
薄暗い闇の中でも、清らかな白を慎ましくひらめかせる、可憐なヒメジョオン。
夜に艶やかに点在する、エンドウ豆のように並んだ葉っぱ。そこに小さなハートの花びらを咲かせる、赤紫色のからすのえんどう。
夜の美しい色を淡く映し出すように、優しい青紫色のスミレ。
花屋で飾られるような、華やかで立派な花とは決して言えない。
それでも、清らかな白いリボンで一束に包まれた幾つかの草花。それはまさに、小さくて可憐な‘‘花束”であった。
夜闇にひっそりと咲く、野花の逞しくも可憐な美しさを包んだ‘‘花束”に、美咲は瞳を奪われた。
そして、山田と初めて言葉を交わしたあの初夏の記憶が、美咲の頭の中で咲こうとしていた。
「花宮も だよ。」
「え? 今なんて?」
「……さあ、何て言ったかな」
「何それっ。」
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