相沢さんと僕

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 その日から、彼女の行動を目で追いかけてはメモを取る日が続いた。  小さな手帳を買って、それを常に胸ポケットに忍ばせる。そして、観察した彼女の行動を片端からメモするのだ。  ちらりと見て、手元でメモを取り、彼女と目が合いそうになったら慌てて逸らす。  やってる事は完全にストーカー。  ますます絶対知られるわけにはいかない。  そのうち、小癪な技を覚えた。  僕の席の真横にある窓は、グラウンドと校舎を隔てる植え込みの木で一部の視界がふさがれている。  角度をうまくすれば、その部分に教室内の様子が反射してくれるのだ。  その事に気付いて以来、窓の外を見ているふりをして、その反射で彼女を見るようになった。  直に見るよりは見づらいが、凝視できるのでこの技は多用した。  彼女は笑い声がとっても大きい。  不満がある時、唇を尖らせる。  夏が好き。果物が好き。海外ドラマが好き。  よく走る。  時々意味なくジャンプもする。  数学の時間は良く寝ている。  音楽と体育の時間に生き生きしている。  チラ見と反射を利用した凝視を繰り返すことで、僕の作品に登場する予定の彼女は実に魅力的なキャラクターに仕上がった。  だがまあ、悪事というのはいつか露見するものだ。
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