相沢さんと僕

4/13
前へ
/13ページ
次へ
 ある日、いつものように反射を利用して彼女を見ていたところ、不意にその姿が消えた。 「ねえ」  その直後、後頭部側から声をかけてきたのはもちろん相沢さんだ。  張りのあるその声を浴びせられた時、僕は冷水でもぶっかけられたような気分になった。  親に隠れて、コッソリ深夜の桃色番組を見ていたら、突如親が部屋に入ってきたときのような感じだろうか。 「窓の外にさ、なんか面白いものあるの?」  俺が振り向くより早く、相沢さんはどうやら身をかがめ、俺の顔の横に自分の顔を並べてきた。  漂ってきた良い香りに、思わずうっとりとしてしまう。 「猫でもいた?」 「え、あ、いや……」 「ほんとだ、いるねぇ」  そう言いながら、彼女が指先に持っていた何かを僕の手に押し付けてきた。  他のクラスメイトには見えない角度でだ。 「いっつも窓の外見てるからさ、気になってたんだよね」  僕が受け取ったのを確認すると、彼女は身を起こした。 「そっか、猫見てたんだねぇ。分かるよ、可愛いもんね。でも、見過ぎには注意しなきゃね」 「……だ、だよねぇ」 「あー、スッキリした」  僕の肩をぽんと一つ叩き、彼女はそのまままた遠ざかっていった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加