第一話 古都の祭り

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第一話 古都の祭り

 少女ウィンテは静かに耳を傾けている。  聞いているのは、オルゴール。それはゆったりとした心地良いメロディーだった。  しばらくしてオルゴールはそっと鳴り止んだ。それに気づいたウィンテは食卓に置かれた懐中時計に手を伸ばす。時計の丸い蓋をパタンと閉じた。 (オルゴール付きなんて、珍しいわね)  それは妹フリューレからの手作りの贈り物。しかも今日貰ったばかりだった。  今夜は、三月の満月・・・・・・《月返し》の晩。  此処、ゲースヴァルトの古都では《月返し》の晩は、特別な日とされている。都中では祭りが催され、親しい人たち同士でプレゼントを交換するのが古くから慣習だった。もちろん、ウィンテも妹へのプレゼントは準備済みだ。  けれども、妹は未だに帰宅していない。夕食の時間はとっくに過ぎていた。 「本当にあの子は・・・・・・」  独り言を呟きながら、席を立つ。窓から外を覗き、妹の姿を捜してみる。 (何時になったら帰ってくるのかしら)  石畳で舗装された街路は、まき散らされた祝いの紙吹雪ですっかり様変わりしていた。     
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