プロローグ

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人の良さそうな笑顔で男は笑う。 その細められた瞳は不思議な紫色をしていて、こんな瞳の色の人に会うのは初めてだった俺は、都会には田舎にはいない色の人がたくさんいるんだなと思う。 「君も出身はメリアなの?」 彼の問いに俺は渋い顔をする。そう、俺の髪はこの国では珍しい赤髪なのだ。 赤髪は一般的には隣国メリアの象徴で、こんな風に言われてしまうのも日常茶飯事だ。 「生まれも育ちもファルスです。ついでに言うなら母も祖父母もファルス人」 彼は不思議そうに首を傾げる。 「じゃあ、お父さんがメリア人?」 「知りません、会ったことないんで」 不貞腐れたように言った俺の言葉に、彼はまた少し困ったような表情を見せた。 「私は何か聞いちゃいけない事を聞いたかな?」 「別に…こんな赤髪だし、そう言われるのには慣れてる」 そう言って、俺は自身の髪に触れる。 俺の故郷ルーンに赤髪の人間はいない。母はシングルマザーで俺を産み、父の事を語ってくれた事は一度もない。 その赤髪は田舎ではとても目立っていて、影でこそこそ言われている事も知っているが、そんな事にいちいち切れていたら田舎では暮らしていけない。 不機嫌全開の顔の俺に、彼は困ったように笑顔を向けて、改めて謝罪を受けると共に自己紹介をされた。 「私の名前はユリウス・デルクマン。今回の武闘会参加予定の騎士団員なんだけど、如何せん普段は田舎暮らしなもので、姉共々人波に飲まれてね…ここがどこだかも分からないよ…」 「え?あんた騎士団の人なの?」 彼の容貌はほんにゃりしていて、どうにも騎士団員というその厳つい仕事に不釣合い過ぎる。俺はつい疑いの瞳を向けてしまうのだが、彼はそれにもまたほやんと笑った。 体格がいいのは認めるが、そんなほにゃほにゃした感じで国を守れるのか甚だ疑問だ。
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