動き出す過去の亡霊

2/22
前へ
/288ページ
次へ
キースと名乗った第一騎士団副団長は難しい顔をして唸っていた。 「自分が知ってる情報はこの程度で詳しい話しは全く、ですよ」 あった出来事の一連の流れを伝え、分かるかどうかも分からなかったのだが『Ω狩り』という単語も使ってみたら、キースはそれが分かるようで更に唸った。 「今イリヤはお祭り期間で各地から観光客も大勢来ている、これは厄介かもしれないな。Ωに絞れば警護も楽かもしれないけれど、Ωは元々その性を隠したがるからな…」 「そういうものなんですか?」 「君は?α?」 「いえ、ユリウスさん曰く、俺はβらしいです」 「あぁ、そうなんだね。じゃあ知らないか。過去Ωは酷い差別を受けていてね、その体質ゆえ疎まれる事も多かったんだよ。Ωは無闇とαを誘惑する、昔はそれに引っかかったαが性犯罪の罪に問われるなんて事もなくはなかったからね」 ユリウスの言葉を聞いた限りではΩは常に被害者側かと思ったら、逆に考えれば加害者にもなりうるという事か…よく分からないけど奥が深い。 「とりあえず話しは分かった。坊がどのくらいで戻ってこられるか分からないけど、ここには一応簡易の宿泊設備も整っているから好きに使ってもらって構わないよ。私はもう少し情報収集にあたるから、良かったらそっちの部屋で待っていて。ここじゃ忙しないと思うからね」 そう言って案内された部屋が簡易宿泊施設だろうか?たくさんの人数は入れないだろうが、真ん中に小さな机とその周りに幾つかの小ぶりなベッドが配された小さな小部屋だった。 「こんな所で申し訳ないけど、ゆっくりできる部屋はここくらいだから」 キースはそれだけ言うと足早に仕事に戻っていった。 部屋の中は薄暗い、一人でいたら少し寂しいな…と思いつつ、ベッドにかけると窓辺でゆらりと影が動いた。 最初は見間違いかと思ったのだが、よくよく目を凝らしてみれば、そこには誰か人が蹲っている。 先客がいたのか?それともお化け…?そんな非現実的な事は元来信じてはいないが、その光景はあまりに不自然で、少しだけそんな考えが頭を過ぎった。 「誰?」 恐る恐る声をかけると膝を抱えるようにして座り込んで俯いていたその人影の肩が揺れた。 薄暗がりでやはりよく見えないので、灯りを灯すとその人物は顔を上げて目をしばたかせる。 「あ…」
/288ページ

最初のコメントを投稿しよう!

320人が本棚に入れています
本棚に追加