動き出す過去の亡霊

5/22
前へ
/288ページ
次へ
カイトの心の内は悲観的で、どこから慰めたものか分からない。 「それでも自分の負担になるなら、そんな人間関係はよくないと思います…」 「うん…そうだよねぇ…分かってるんだけどさ」 カイトはまた大きく息を吐いた。 「僕の『運命』ノエルみたいに優しい人だったら良かったのに…」 「運命…?」 カイトはこちらを向いて微かに笑みを見せた。 「ノエルは『運命の番』って知ってる?」 「運命の番?」 「そう、生まれた時から決まってる『運命の番』世界で一人だけ、自分だけの運命の人」 「えっと…運命の赤い糸的な?」 「うん、そういう感じ。僕のね『運命の番』はたぶんツキノなんだよ」 意味が分からなくて首を傾げた。 「好きでもないのに?」 「嫌いじゃないって言ったよ。別に嫌いじゃないし、嫌いにはなれない…だけど、愛せないんだ」 「意味がよく分かりません。それは結ばれてるとは言えないでしょう?」 「これは決まってるんだよ、僕達には分かってる。ツキノは『運命』だけど『運命』は僕に優しくない」 「何が分かってるのか分かりませんけど、それ間違ってると思います!どうしてそんな風に決め付けるんですか!そもそもカイトもツキノも男だし、そんな運命とか意味が分からない!」 「君はバース性を知らないんだね」 カイトは呟くようにそう言った。 「あの、αとかΩとかいう?さっき少しだけ聞きましたけど、そういえばカイトはΩだってユリウスさん言ってたけど…」 「そう、僕は『男性Ω』Ωの中でも珍しい男のΩ。だけど、それでもΩはΩ」 「そんな事言われたって知った事じゃない、カイトはカイトだろ!普通に男女の性別だって男だ女だとか言う前に、一人の個人じゃないですか?違います!?」 「…それはそうだけど…」 「だったら別にそういうの気にする必要なくないですか?!」 「だけどΩにとってαの子供を産む事は義務みたいなものだから…」 「それこそ知った事じゃないですよ、産みたくないなら産まなきゃいい。女の人だって全員が全員子供を産んでる訳じゃない。義務って何?自分の人生に足枷付けても生き辛くなるだけだ!」
/288ページ

最初のコメントを投稿しよう!

320人が本棚に入れています
本棚に追加