320人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、きっとまだすぐじゃないね」
「そうかなぁ?」
「だって、まだ皆屋敷を窺うばっかりで動きそうにないよ?」
「う~ん」
「俺、ちょっとその辺見てきてもいい?」
言って俺は立ち上がる。ここイリヤに来てから、落ち着いて観光のひとつもしていない。
元々観光目的ではないのだから当たり前なのだが、少しくらい景色を見て回るくらいしてもいいと思うのだ。
都合のいい事にこの場所は街を一望できる見晴らしの良さだし、街の広さを実感するのにはうってつけだ。
展望台から少しだけ離れて、街を見下ろす。ここイリヤの街は本当に広いと思う。
こじんまりとしたルーンの町が少しだけ懐かしい。
少し歩いて行くと、なにやら作業している幾人かの職人のような男達に遭遇した。
一体何をしているのだろう?
なんとはなしにその作業を眺めていると、職人の一人がこちらに気付いて顔を上げた。
「なんだ、坊主。危ないから近付いちゃいかん」
「何をやってるんですか?」
「あ?花火の準備だよ。祭りの締めは花火と相場が決まっているからな」
「花火…」
聞いた事がある、火薬の塊を打ち上げて夜空に大きな華を咲かすという話だ。
けれど、俺はそれを見た事がない。
「それ、お祭りの最後にやるんですか?」
「あぁ、そうだよ。坊主は観光客か?花火を見た事がないのかい?」
こっくり首を縦に頷くと「そりゃあ勿体無いこった」と男達は笑った。
「最終日の夜までいるなら、盛大に打ち上げてやるから是非見ていってくれ」
「はい!」
大きく頷くと男達も嬉しそうに微笑んで「ここには火薬がたくさんあるから、近付かないようにな」と、また忙しなく作業に戻ってしまった。
俺は踵を返してウィルの元へと戻る。
「ウィル、どう?」
「全然、ノエルの言う通りだよ。時間もちゃんと聞いとけば良かったぁ」
「こういうのはタイミングの問題だから、時間とか決まってないんじゃないかな?」
最初のコメントを投稿しよう!