動き出す過去の亡霊

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「じゃあ、きっとまだすぐじゃないね」 「そうかなぁ?」 「だって、まだ皆屋敷を窺うばっかりで動きそうにないよ?」 「う~ん」 「俺、ちょっとその辺見てきてもいい?」 言って俺は立ち上がる。ここイリヤに来てから、落ち着いて観光のひとつもしていない。 元々観光目的ではないのだから当たり前なのだが、少しくらい景色を見て回るくらいしてもいいと思うのだ。 都合のいい事にこの場所は街を一望できる見晴らしの良さだし、街の広さを実感するのにはうってつけだ。 展望台から少しだけ離れて、街を見下ろす。ここイリヤの街は本当に広いと思う。 こじんまりとしたルーンの町が少しだけ懐かしい。 少し歩いて行くと、なにやら作業している幾人かの職人のような男達に遭遇した。 一体何をしているのだろう? なんとはなしにその作業を眺めていると、職人の一人がこちらに気付いて顔を上げた。 「なんだ、坊主。危ないから近付いちゃいかん」 「何をやってるんですか?」 「あ?花火の準備だよ。祭りの締めは花火と相場が決まっているからな」 「花火…」 聞いた事がある、火薬の塊を打ち上げて夜空に大きな華を咲かすという話だ。 けれど、俺はそれを見た事がない。 「それ、お祭りの最後にやるんですか?」 「あぁ、そうだよ。坊主は観光客か?花火を見た事がないのかい?」 こっくり首を縦に頷くと「そりゃあ勿体無いこった」と男達は笑った。 「最終日の夜までいるなら、盛大に打ち上げてやるから是非見ていってくれ」 「はい!」 大きく頷くと男達も嬉しそうに微笑んで「ここには火薬がたくさんあるから、近付かないようにな」と、また忙しなく作業に戻ってしまった。 俺は踵を返してウィルの元へと戻る。 「ウィル、どう?」 「全然、ノエルの言う通りだよ。時間もちゃんと聞いとけば良かったぁ」 「こういうのはタイミングの問題だから、時間とか決まってないんじゃないかな?」
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