動き出す過去の亡霊

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「え~」とウィルは焦れたようにその場に転がる。 「もう、ちゃっちゃと乗り込んで、ちゃっちゃと犯人達とっ捕まえればいいじゃん!」 「そんなに簡単に解決するような話なら、事件になんかならないよ」 「そうだけど…」とウィルは不貞腐れ気味だ。なんかこういう所、ホント年相応だよな。 「ずっとここで屋敷見てるのもアレだし、お祭り見に行く?」 「うぅ~ん、遊んでる間に終わっちゃったら、それはそれで嫌だなぁ」 腕を組んで考え込んでしまったウィルを尻目に俺は展望台から屋敷を眺める。 と、ふいにぬっと脇から影が差し、誰か来たのかと顔をそちらに向けようとしたら問答無用で髪を捕まれ引っ張られた。 「なっ!痛いっ!!離せっ!」 「目障りな赤毛を晒している奴が悪い」 俺の髪を掴んで、その男は虚ろな瞳でそう言った。 全く見た事もない男だ、髪も髭も伸び放題、服はぼろ雑巾のように薄汚れ、年齢もよく分からない。 そんな中でその虚ろな瞳だけが妙に印象的で、何故だか背中がぞっとした。 「あんた誰だよ、ノエルを離せっ!」 事態に気付いたウィルも飛び起き、その浮浪者のような男に食ってかかるのだが、男は全く意に介した様子はない。 「メリア人が大きな顔でファルスを闊歩してるのは我慢がならない」 「俺は、メリア人じゃないっ!」 「こんな赤毛を晒してか?どのみちメリアの血は入っているんだろう?」 「知らないよっ!聞いたことねぇもん!」 俺は髪を捕んだ腕を逆に掴み返すのだが、男の腕はまるで弛まず離れない。ウィルも怒って一緒になってその腕を掴むのだが、やはりその男の手は解けなかった。 こんな体躯はしていてもまだ12歳の子供、こんな扱いを受けたのは初めてだ。 男は浮浪者のような格好なのだが、浮浪者のようなひ弱な感じでは全くない、自分はこのまま何をされるのか…と恐ろしく、泣いてしまいそうだ。 「お前達!そこで何をやっている!」 その時かけられた鋭い声に、瞬間男は顔を上げた。 その隙を見逃さずウィルが男の腕を叩き落し、俺はようやく解放され、へたり込んだ。
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