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溜息を零すようにスタールは大きく息を吐く。
「ただでさえ祭りで忙しいのに、余計な手間かけさせやがって…」
と、そうスタールが零したその時、奥の部屋から「うわぁ!」と叫び声が聞こえ、続いて人の争う声、激しい物音が続いて俺達は驚いてそちらを見やる。
「何だ!どうした!?」
「さっきの男が突然暴れ出して!うぐっ!」
目の前に血飛沫が上がり、目の前で人が倒れた。
そしてその背後から現れたのは先程の浮浪者のような男だ、手には騎士団員から奪ったのか剣を抱えてふらりとこちらへと歩いてくる。
え…これ、何?!何が起こってるの!?
やはりその男の瞳はどこか虚ろで何を見ているのかもよく分からない。
「ちっ!小僧ども、逃げろ!」
スタールは腰に差した剣を抜き放ってそう叫ぶと、男の前へと躍り出た。
騒ぎを聞きつけた他の団員達もわらわらと寄って来て、男は完全に包囲されてしまったのだが、それでも男は微動だにしない。
「はは、まさかお前が騎士団長になってるとはなぁ、スタール・ダントン」
「あぁ!?」
「忘れたとは言わせんぞ、俺の名前」
男はそう言うのだが、スタールの方に心当たりはないのか、不審気な顔で眉を寄せる。
「俺に犯罪者の知り合いはいないはずなんだがな」
「だったら、思い出させてやる俺の名前は…」
その言葉と共に斬りかかってきた男をいなして、スタールは驚いたような表情を見せた。
自分達には聞こえなかったのだが、スタールは男の名前が聞き取れたのだろう、少しの動揺を見せる。
「お前、出てきてやがったのかっ」
「お陰様でつい最近な。皮肉な事にこの武闘会の年に釈放だ、とんだお笑い種だよ」
「そのまま、消えればいいものを…こちとら忙しいんだ、お前如き犯罪者に構ってる暇なぞないわ!」
「デルクマンの犬がよく吠える!」
「生憎俺自身が今は騎士団長だ、負け犬の遠吠えはお前の方だっ!」
どうやら2人の間には並々ならぬ憎悪があるようで、2人は罵り合うようにして剣を交える。
逃げろと言われはしたが、その時俺達は見動きする事もできず、ただ呆然と斬り結ぶ二人を見守っていた。
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