動き続ける事件の闇

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騎士団長と浮浪者の闘い。 圧倒的にスタール騎士団長の方が有利だと思われたその闘いだったが、思いのほかその浮浪者は手強く、なかなか留めの一撃が繰り出せないスタール騎士団長は焦れているようにも見えた。 何せ場所は騎士団の詰所の中、室内である。大柄な体躯のスタールが剣を振り回すには些か手狭で、場所が悪い。一方で浮浪者の男の方はその細身な体躯でぬるりぬるりとスタールの攻撃を避けるばかりだ。 周りを取り囲んだ他の騎士団員達も討ち取るタイミングを計ってはいるのだろうが、なかなか動けない様子だ。 「あの人、見かけはアレだけど、ちゃんと訓練された兵士だね」 ウィルは少しばかり真剣な面持ちで小さく呟いて、そっと俺の前に出た。なんだろう、庇ってくれてるつもりかな?それともいざとなったら自分も出てく気? 危ないから止めた方がいいと思うけど。 「ウィル、団長の言う通り逃げた方が…」 「スタール団長は負けないよ」 それでも、ここは一時避難が懸命なのではないかと思うのだが、ウィルは動こうとしないので、俺も動くに動けずそこに立ち尽くした。 それほど長い時間は経っていないとは思うのだが、しばらくすると浮浪者の動きが鈍ってきた。さすがに体力の差、というやつなのだろう。 「大人しく、縛につけっ!」 「縛にはもう充分過ぎるほどついたさ。俺はもう自由だ!」 「また罪を重ねれば、もう二度と出て来られなくなるぞ」 「望むところだ!俺の人生はもうあの時に終わっている、だったら好きなように生きて、そして死んでゆくのみ!」 瞬間、スタールの顔に浮かんだのは憐れみの表情。 過去この2人の間に何があったのかは分からないのだが、浮浪者のようななりの彼も元々はこんな犯罪者になるような人間ではなかったのではないか…そんな思いが頭を掠めた。 「お前は哀れだな…」 「何とでもほざけ、俺には痛くも痒くもないっ!」 のらりくらりと剣をかわしていた男が動き、その剣がスタールの脇腹を掠めた。 それはもはや浮浪者の動きではなく、ウィルの言う通り訓練された兵士を思わせた。 「俺はまだこんな所では終われない。行かせてもらうぞ!」
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