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「それでもだ!お前はまだ子供、こういうのは大人の仕事でお前達は守られるのが仕事だっ!分かったら返事!」
「むぅ…」
完全に不貞腐れたウィルは返事を返さない。確かにスタールの言っている事は正論なのだが、ウィルがいなければあの男を取り逃がしていた可能性があったのも事実なので、どうにもどちらの肩も持てない。
「ウィル坊、返事!」
「父ちゃんだったらそんな事言わねぇもん!父ちゃんだったら絶対褒めてくれたもん!!スタール騎士団長の馬鹿っっ!」
ウィルは叫んで、踵を返すと逃げるように駆けて行く。
「ちょ!ウィル!?」
待って!俺、置いてかれたら帰り方が分からないっっ!!
追いかけようとしたのだが、ウィルの足は思いのほか速く、俺はすぐにウィルの姿を見失ってしまった。
「あいつは本当に仕方がない、第3騎士団の奴等がよってたかって甘やかすから怖い物知らずだ。あいつが充分大人と同等に戦える事は分かっているが、それでも年齢的にはまだまだ子供、何かあってからじゃ遅いんだって事を何で誰も理解しないのか…」
傍らのスタールは零すようにそう呟くのを見上げて、この人の言っている事は物凄く常識的なことだというのは分かるのだが、少しばかり真面目すぎるのではないかとも思ってしまう。
叱る所は叱ればいい、けれど今回の場合はまず褒めてから叱るべきだった。
そんな事を思っていると、彼は少し顔を歪めて脇腹を見やる。そこには先程斬りつけられた傷痕から血が滲み出してきていて、思っていたより重傷で驚いた。
「血!酷い怪我じゃないですか!手当て!早く!!」
「あ?あぁ…そこまで騒ぎ立てるほどの怪我じゃねぇよ…」
溢れる血を抑えるように、スタールは平然と歩き出す。そんなかすり傷みたいな言い方するほど軽い傷じゃないからっ!
「怪我人はとりあえず仕事はいいから、大人しくしていろ!医者はまだか?」
けれどスタールはそんな自分の怪我は隠したままおくびにも出さず、また次々に部下に指示を飛ばしていく。
部下の怪我には配慮するのに、自分の怪我は二の次か?
俺がそんな事を考えおろおろしていると、幾人かの騎士が連絡でも受けたのか、慌てたように詰所に戻って来て、詰所の中は更に騒然とする。
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