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しまったな…という表情で慌てたようにカイルは自身の口を押さえる。
「誰ですか!どこにいますか!?ここにいるんですか!?」
「えっと…いると言えば…うん、いるね」
「誰ですか!?俺、探しに来たんです!自分の父親が誰なのか!俺はそれが知りたい!」
「うぅ~ん…僕の口からは言えないかなぁ…お母さんに直接聞いて」
「教えてくれないから聞いてるんですよ!」
あぁ…とカイルは瞳をそらした。
「言ってないんだねぇ…まぁ、言えないよねぇ…」
「言えないって、どういう事ですか!?」
カイルは困ったように周りを見回し、そしてひとつ息を零した「うん、やっぱり僕の口からは言えないかな」と呟いた。
「常に非常識な奴が常識的な事を言いやがる。知っているなら教えてやればいいものを…」
「スタール、うるさい。僕はちゃんと良識を弁えた上で非常識な事をしているのであって、常に非常識な訳じゃないんだよ」
「非常識な事をしている自覚を持った上で非常識な事をしている人間が、良識があるとかのたまうのは可笑しな笑い話だな」
「スタール、僕にそんな事を言って、あとで後悔しても知らないよ!」
「生憎と俺は後悔の残る人生は送っちゃいねぇ、処置が終わったんならさっさと帰れ」
カイルは少し憮然とした表情を見せたのだが、すぐに元の笑みを見せこちらに向き直った。
「ごめんね、これはメリッサとの約束だから今は言えない。だけど、君のお父さんは君が思っているよりすぐ近くにいるよ」
彼はそう言って、怪我人一人一人に薬を手渡し去って行った。
薬を貰った者達は皆一様に複雑な表情でその薬を眺めている。
「なんで、皆あんな顔になってるんですか?」
「あいつの薬は本当によく効くんだよ。それは分かっているんだが、あいつは時々まだ完成していない試作品を何の説明もなく俺等に使う。死人が出た事はないが、酷い目にあった奴等はごまんといてな、あいつに手渡された薬は危険物と隣り合わせだ。買うなら薬局を通すに限る」
やはり苦々しい顔でスタールはそう説明してくれた。
「ハリーもわざわざ悪かったな。向こうの様子はどうだ?」
「まだ様子を見ている所ですね。なにせ人質の数が分からなくて、下手に突入して殺されでもしたら目も当てられません」
「でも、中にお嬢もいるんじゃなかったか?」
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