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「それで、そのロイヤー家って縁起が悪いって言ってましたけど、何かあったんですか?」
「じいさんが何も話していないものを話すのもなんだが、ロイヤー家の息子が昔ちょっとした事件を起してな、貴族の位を剥奪されたんだよ。その事件に俺達も関わっていたから、少しばかり縁起が悪い。ついでにその時ロイヤー家を嬉々として叩き潰したのはお前のじいさんだったんだがな」
「本家を叩き潰したんですか…?」
「昔何か色々あったみたいでな、恨みつらみを楽しそうに呟きながら叩き潰していたのを今でもはっきり覚えている。あの人だけは敵に回したくないな、とあの時俺は思ったよ」
なんだか妙に恐れられていた祖父の現役時代の話に、そんな事があったのかと驚いてしまった。
「まぁ、何も知らないのならこれ以上首を突っ込む話しではない。それにしてもロイヤーか…どいつもこいつも全く」
「何かありましたか?」
「さっき暴れて牢に放り込んだ男。あいつだ、ジミー・コーエン」
瞬間、ハリーは驚いたような表情を見せ、その後困ったように眉間に皺を寄せた。
「…あの人、出てきてたんですか…」
「そのようだ、まったくこのクソ忙しい時期に問題ばかり起しやがる」
そうぼやきながら、スタール騎士団長は「お前はもう行っていいぞ」と手を振った。
行っていいと言われても、ウィルもどこかに行ってしまったし、これはもう第一騎士団の詰所に戻るしかないのだが、自分の現在位置すらよく分からない。
城を見ながら歩いて行けば辿り着けない事はないだろうが…と少しばかり途方に暮れた。
とりあえず大通りに向けて歩いて行けばどうにかなると思い、そちらに向かって歩いて行ったのだが、俺は昨日の今日で完全に失念していたのだ、その大通りの人の数を…
「やばい…この人波を渡れる気がしない…」
その人波を抜けて向こう側に行ってしまえばいいのだが、そこまで辿り着けるのか分からないその人波に俺はまた途方に暮れた。
どうしようか…としばし考え込んでいると突然脇で「ヒナは!?」という叫びが聞こえた。
何事かとそちらを見やればたくさんの子供達に囲まれた綺麗な赤毛のすらりとした女性が青褪めて周りを見回していた。
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