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「僕は、何もできなかったんだ。ただ、仲間が死んだ姿を、死んでいく姿を、見てるだけだった」
どんな時でも何よりも頼もしかった仲間の身体が、ひどく小さく見えた。
「気づいたら、僕の前で、みんなは死んでた」
シキくんはどんな顔をしているんだろう。
もう、見えない。
ぼやけた視界には、もう何も映らない。
僕の中の記憶は、もうとどまってなんかくれない。
「そのあとは、また医務室横の部屋に連れ戻されて、外の世界から遮断された。次に外に出られるまで、僕はひたすら、僕自身を責めた」
窓一つなく、外に出ることも許されないあの空間は、ひどく息苦しかった。すべてのものが僕によしかかってくるようで、何もかもが重い。得体のしれない何かが足に、肩に、すべてに絡みついてくるようだった。
「僕がいたら、何かを変えられたかもしれない。全員じゃなくても、誰か1人でも、助けられたかもしれない。僕が体調を崩さなかったら、ハルキを起こさなかったら、もっとゆっくり休めてたら、みんなを助けてくれたかもしれない。そんな、考えても仕方ないことばっかり、考え続けてた」
あの時間がどれくらい長かったのか、僕には分からない。覚えているのは、真っ黒に塗りつぶされたような感情と、明滅する仲間の、生気を失った顔ばかりだ。
「やっと外に出られた時には、もうみんなの葬儀は終わってた。僕のもとには、みんなからの手紙が渡された。僕達は、相談して書いてたんだよ。もし、自分だけが死んだ時のために、残った仲間に向けて」
仲間達と談話室で手元を隠しながら書いたあの時、思い描いた光景はどこにもなかった。僕の周りには、仲間がいるはずだった。僕だけがいないはずだった。いや、手紙が誰かの手に渡ることなんて、あるはずがなかった。
「みんな、おんなじこと書いてたんだよ。みんなで、力を合わせて、戦ってくれ。自分が死んだことは誰のせいでもないから、気にしないで、最後まで戦ってくれって。すごいよね、誰も話し合ってないのに。みんな、そろって、おんなじこと書いてたよ」
シキくんの瞳が、静かに濡れている。
当然だ。彼もまた、あの時の僕と同じように、失った側にいるんだから。
でも、あの頃の僕と、今のシキくんには、明らかに違うところがある。
だって、シキくんは、まだあれを失っていないんだから。
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