第6話「Honor」

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「それを読んで、僕は1人でも戦っていくことを決めた。訓練を再開した。いつもNo.7のみんなとやってたことを、独りで」  それでも、現実は、感情を裏切った。 「だけど、だんだん違和感が出てきたんだ。アラインに、僕のアニーロに、指示が出せなくなっていった」  この事実を言えば、シキくんならどういうことか分かってしまうはずだ。  僕が、どうして、今もまだ生きているのか。 「それって、能力が……」  やっぱり、彼は聡い。 「そう。僕は、アーミーチャイルドとしての能力を、もう失くしてたんだ。本当なら出動の後に受ける健診を受けられなかったせいで、気づくのが遅れた。僕の能力はあっという間に低下していって、遅れてた健診を受けられた頃には、もう全く残ってなかったよ」  医務室で告げられたその結果は、ひどく現実離れして聞こえた。  どうして、僕はまだ生きているんだろう。  みんなとの約束を、果たせないんだろう。  僕を残して死んでしまった仲間のために、死を迎えるその瞬間まで戦う。  そんな、アーミーチャイルドにとって当たり前のことが、どうして僕にはできない。  何故僕には、何もできないんだ。  答えのない問いだけが、僕の頭を満たしていた。 「さすがに施設側も、もう能力を失ったことが判明したアーミーチャイルドを、戦地に送ることはできなかった。でも、アーミーチャイルドの情報を外の世界で口外するかもしれない僕を、社会に戻すこともできない」  異例すぎた僕の存在は、明らかにもてあまされていた。施設の人達が僕への対応に戸惑っているのは、多すぎた変化のせいで過敏になりすぎた僕の神経に、痛いほど伝わった。  僕はここにいてもいいのか。  その答えなんて、今も知らない。  毎日主を失った仲間達の部屋に囲まれた場所で、時間が過ぎるのをひたすらに待った。  一日寝て過ごすことができればよかったが、物心つく前からついてしまった習慣のせいで、毎日同じ時間に目は覚めてしまい、もう眠ることもできなかった。 「結局僕は、この施設の中で、施設の人間として働くことに決められた。不思議な気分だったよ。今まで自分と同じだと思ってた人達と、まったく違う立場に立つのは。毎日、慣れないことしかなかった。同じどころか、近い立場の人もいない。話し相手すらいない。みんなが、僕の事情に触れないようにしてることが、たまらなかった」  そして、僕は初めて経験した。 「その頃、No.11がこの施設にきたんだよ」  目の前の彼を、静かに見つめる。 「シキくん達は、僕が初めて最初から知ってるアーミーチャイルドなんだ」  幼かった彼等の姿は、眩しかった。 「僕にとって、No.11は特別なんだよ。だから、この話をした。そして、お願いだ」  ひどく歪み、そして曖昧すぎる立場に置かれた僕を、No.11は初めて何も通さず見てくれた。その視線に、僕は勝手に、助けられた。 この自分勝手な話が僕のエゴイズムにすぎないのは分かっている。  それでも、僕はNo.11がこれ以上壊れていくのを見たくない。  だから目の前にいる彼に伝えたい。 「シキくん、No.11のみんなと、戦い続けてほしいんだ。リンくんは、君のせいだなんて、誰かのせいだなんて、思ってない。きっと、リンくんは願ってる。みんなが、戦い続けることを」  声が震えていることには、とうの昔に気づいている。  それでも、僕は今この言葉を伝えたい。 「僕が勝手なことを言っているのは分かってる。でも、No.11はまだ戦えるんだ。仲間も、能力も、まだ残されてる。だから、お願いだ」  僕は、手の甲で、涙を強く拭う。 「仲間のために、No.11のために、戦ってくれ」  僕がどんなに残酷なことを言っているのか、そんなことは分かっている。  それでも、伝えたい言葉だ。  あの日の僕が、伝えるべきだと言っている。  戦うことをやめないことが、仲間の一番の願いだと。  僕は、口を固く結ぶ。
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