第6話「Honor」

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 コハクさんの瞳を、僕は真っ直ぐ見据える。 「僕は、これからも戦います。リンのために。仲間のために」  言葉の一つひとつが、部屋に静かに吸い込まれる。 「ありがとう」  コハクさんの言葉は、何か大きすぎるものが含まれているような気がするけれど、それでも綺麗だ。  話を聞いて、はっとした。  もし、僕が戦地で死んだら、どうするだろう。  仲間のだれかに、責任を求めるだろうか。  僕の死に落胆し、悲しみに暮れることを望むだろうか。  いや、そんなはずはない。  僕が仲間達にのぞむのは、彼等が少しでも長く戦い続けることだ。  本当に普通ならば、何事もなく幸せに過ごし続けることを望むのだろう。  でも、僕達アーミーチャイルドに、その未来は生まれながら存在しない。  それでもせめて、僕達は僕達が実現できる中で一番の幸せを、仲間達にはつかんでほしい。  きっとそれは、仲間達も、リンも同じはずだ。  だから、僕は、リンの願いを、かなえたい。  戦おう。  これからも。 「コハクさん、ありがとうございました」  僕は立ち上がり、深く頭を下げる。  視界にはただ静かにケースの中に横たわる光線銃がある。  きっと、コハクさんと、No.7達と、とてつもなく長い時間を一緒に過ごしてきたんだろう。綺麗に磨かれているけれど、それでも消えない小さな傷が無数に刻まれている。  これをコハクさんがあの場所で握ることは、もうない。もうできない。  でも僕にはまだ戦う術がある。キュールと共に、光線銃で破壊者を撃つことも、双剣でその四肢を切り刻むこともできる。だから、僕はまだ戦おう。 「また、何かあったら、いつでもきてよ」  そう言って戸口で僕を見送るコハクさんの顔は、いつもより幾分か晴れやかに見える。  随分と短い帰路を辿ってみれば、随分と短く感じる。  コハクさんの部屋に向かった時とは同じ道のりとは思えないその長さは、今の僕が考えなければならないことの多さにひどく似合いだ。  網膜スキャンの光も、相変わらず殺風景な部屋も、そこに広がる静寂も、いつも通りだ。  僕はこれからもいつも通りに戦えばいい。  変わることは一つだけだ。  それは、心の中に1人の仲間が宿ってくれることだけだ。 「これからも、よろしくな。シキ」  その仲間がいつものように、笑った気がする。
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