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「ねえ」
栗毛色の、癖のある長い髪を二つに束ねた少女が、僕の手を引いた。
小学1年生の夏休み。
幼馴染の僕達は、小学校の裏山に毎日2人で行っていた。
昼間は蝉、夜は蛙の大合唱が繰り広げられる中、大きな木の下で遊んでいた。
「わたしね、あした…いなくなるんだ」
いつもの場所で、いつも通り2人で遊んでいたとき、それは彼女の口から唐突に告げられた。
「ひっこすってこと…?」
…まだよく伝わらない僕がそう聞くと、彼女が少し黙ったあと、返事を返さずに続けた。
「ごめん…いいたくなかったの…でも、いわなきゃダメって、おもって……ずっと…」
レモン色のワンピースの裾を握り締め、彼女は俯いた。
いつも眩しいほどの笑顔を向け、髪の色と、よく着ているワンピースの色から、向日葵のような子だったと記憶している。
「すごく、すごくとおいところなの…こわいの……」
その時の彼女はいつもとは真逆で、悲しく俯いていた。
夏の日照りと蝉の大合唱
はっきりと彩られた風景
賑やかな日々
待ちに待った夏休み
2人だけのヒミツの場所
お互いに涙が溢れた場所
「…でもね?」
キラキラ輝かしい
毎日
景色
日の光
彼女の姿
「すぐ、かえってこれるの。」
君が一番好きだと言った季節
「だから、わらっておむかえしてね!」
君が特に眩しい季節
「……わかった。ぼく、まってるね!」
涙を拭って、君の手を握る。
汗ばんだその手は、小刻みに震えていた。
「ありがとう」
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