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現在高度は一五〇〇m、パラシュートの予定開傘高度は三〇〇m、後一二〇〇mの距離も、数百キロで降下中の俺たちにとっては一瞬だ。
五〇〇……四五〇……四〇〇……三五〇……開傘!
コードを引っ張ると、一瞬の間を置いてグッと全身に上方向の加速度がかかる。
展開した落下傘はその大面積により十分な空気抵抗を発生させ、降下速度を急速に落とす。
ちなみに空気抵抗を受けながら落下する物体の速度は微分方程式の典型的な例として用いられる。ただ、俺は物理学より先に電気工学の方で微分方程式を扱ったので毎回RLC回路に例えて解いている。
もっと言えば摩擦のあるモータに定トルクを印加したモデルとも等価であるので制御工学ではラプラス変換されてよく用いられる。
そんな事はどうでもいい。
ナイトビジョンによる緑色の視界に迫る地面。
着地と共に柔道の受け身の要領で衝撃を和らげると、全身が雪にまみれた。
即座に立ち上がるとパラシュートを回収し、装備を整える。
俺は四二式小銃。
テルラさんは特殊部隊向けに電源が強化されたモデルである六三式機兵三八型を身に纏い、一五式自動砲と、短機関銃を装備している。
この装備だと、俺が前衛になる事になるのだが、果たして戦えるのだろうか?
弾道特性や反動特性は記録済なので無反動でいくらでも精密射撃ができるが、不安なものはある。
「藤本君、作戦は覚えている?」
テルラさんか地図を広げる。
「えっと、これから受電設備に爆弾を仕掛けたのちに侵入するんでしょ?」
「その通り。うまくやってね」
テルラさんの声はなんだか楽しそうだった。
ベトナムとは違うんだよ? 俺たちソ連領にいるんだよ?
俺の内心は滅茶苦茶焦っていたが、そんな事お構いなしにテルラさんは歩いて行った。
「了解です……」
返事をした俺はそのままテルラさんについていく。
心は重い。
樺太のソ連軍戦力の推計はよく軍事雑誌で見る。
当然推定戦力になるが、戦車だけで二〇〇〇両はあるとされている。ソ連全体で六万両前後の戦車があるとされているのだから妥当な数字だ。
一方、日本が保有する戦車は総数で三〇〇〇両程度。南樺太・北海道にその半数が配備されているといわれているが、半数では数の上で負けている。質も勝っているとは言えない。
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