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町中では懐中時計を持ち歩いている人を見かけることはあるが、生徒の、しかも女子が持っている事は珍しい事だ。
銀色の懐中時計。
白銀の針が正確に時を刻んでいる。
戦闘中も持っているのか……
あの時計……あれは確か、茜の親父さんの形見らしい。
「そんなに遅れてないわね。大丈夫。さっさと行くわよ」
いつもらしい活発な茜の声が、辺りに響いた。
迷彩塗装の施された機兵を身にまとっている茜。
殆どの部分は装甲板ないし電動機で覆われているが、間接部分からは迷彩服が姿を見せている。
さらに、鉄帽(テッパチ)の後から延びる黒い髪。
一束に束ねられた髪が、電源箱(バッテリーボックス)に覆いかぶさっていた。
「「了解!」」
威勢よく返事する機兵科生徒。
一瞬で陣形を組み直すと、周囲を警戒しながら進む。
聞こえるのは足音と、ギアの駆動音と、遠くからの砲声。
時たま戦闘機か攻撃機のエンジン音が轟く。
モータの補佐があるとはいえ、重い装備を背負ったままの移動は息が上がる。
軍事教練を受けている周りの生徒は平然と進むが、週一の付け焼刃程度の訓練しか受けていない俺はついていくのが大変だ。
そういえば、茜は分隊の長となっていることが多い。
茜は女子であるが体力も気力もある。
噂に聞くには実技はダントツの一位だとか。
あくまで『実技』はだが。
強調すると何の実技だか分からなくなるな。
それはさておき、茜の性格は考えるより先に行動するタイプなので士官の適正はどうかわからんが、分隊長なら納得できない事もない。
機兵は兵士。ある程度の学力さえあれば求められるのは戦場での直感と判断力。それが秀でていれば分隊長に選ばれるのは当然だ。
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