ローズマダー

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 うちのクラスに気になる人がいる。  美術の授業中、たまに良い匂いがするのだけれど、その匂いは決まって、普段は目立たない地味な男子生徒の近くで漂っていた。  あの匂いが気になるので時々さりげなく近くを通ったりしているのだけれど、あの匂いがするのは、絵を描いているときだけだった。  ある美術の授業の後、意を決して彼に訊いてみた。この匂いは何の匂いなのかと。  すると彼はふわっと笑って、ピンクの絵の具のチューブを一本、私に差し出した。 「薔薇の香りがする絵の具だよ」  そう言われて嗅いでみると、薔薇かどうかはわからないけれども、確かに花の香りがした。  こんな絵の具を使うなんて、夢見がちな表情を見せる彼によく似合うと思った。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加