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それから二週間たっても、猿のことが、ミドリさんのことが引っかかっていた。彼女はなぜ猿なのか。そしてなぜ猿なのにしゃべっているのか。そして彼女が言った、「生前」という言葉が何を意味しているのか。思考が頭の中をメビウスの輪のように、何度も何度も回って離れなかった。昼飯を食っているときも、仕事をしているときも、寝ているときでさえも頭の中にミドリさんの顔が浮かんできた。
限界が近づいていた。
おれはスマホを取り出した。ディスプレイに十一桁の数字が並んだ。
六回コールが鳴った後、電話の向こうから不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「今週の土曜は休みって言ってただろ?」
「知ってるよ。だから電話したんだ」
「おまえ、高校のときから変わらんな」
「何が?」
「自分勝手な所だよ。学生のときもそうだった。今も全く成長してないらしいな。人が休みの日の、しかも朝早くから電話してきやがって」
「酒井、ごめん。でも、どうしても調べてほしいことがあるんだ」
耳元から何かを飲む音が聞こえた。
「何で休みの日にまで、仕事しなくちゃいけないんだよ。しかもおまえなんかのために」
「悪いとは思ってるよ。でも酒井しか頼む相手がいないんだ」
相手が黙った。おそらく髪をぐしゃぐしゃにしているのだろう。困ったときのあいつの癖だ。
「分かったよ。何をすればいいんだ?」
酒井クン。君はやっぱりいいヤツだ。人の頼みを断ることができない。
「人を探してほしい。いや、正確にいうと違うな。ある人物の消息を探ってほしいんだ」
「ちょっと待て」電話口から物音がする。「よし。どこのどいつだ?」
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