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おれが警察や役所に二階堂ミドリの身元の照会をしようとすれば、その理由を尋ねられるだろう。まさか、「二階堂ミドリってやつは猿なんだ」と警察に言うわけにもいかない。こっちの頭がおかしいと思われるだけだ。
耳元からは何も聞こえない。やつのことだから、また髪をぐしゃぐしゃにしてるんだろう。困ったときはいつもそうだ。
「大丈夫かな?」
おれはなるだけ心配そうに言った。酒井相手に頼みごとをするときは同情を誘うに限る。
「三万だ」
「え?」
「三万くれるならやってやる」
おれは黙った。おれたちがまだガキだったころは、酒井はこういう頼みごとを二つ返事で引き受けてくれた。もちろん無償で。やつもいっぱしの大人になったということだろう。汚れちまったかなしみに……、そう口ずさみたくなる。まぁ、おれはそもそもから汚い男だったんだから、酒井がどういう対応を取ろうと悪しざまに言う資格なんてないんだけど。
「こういう仕事の相場を調べてみろ。それでも安いくらいだ。ところで写真ぐらいはあるんだろうな?」
「ない」
「は? おまえ正気か?それでどうやって探せっていうんだよ。おまえが探そうとしてる本人かどうかの確認すらとれねえじゃん。偽名を使ってる可能性もあるんだぜ? おまえのばあさんのいとこになりすまして」
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