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分かってる。君の言い分はもっともだよ、酒井クン。でも写真を用意したところで、君の役には立ちそうにもない。写真があったところで出てくるのは猿の真っ赤な顔だけだから。
「おまえの言うとおりだよ、酒井。でも調べてほしいのは、おれのばあさんの弔問に来たやつのことじゃない。おれのばあさんのいとこであるという二階堂ミドリという人物が本当にいるかどうか。そして、本物の二階堂ミドリが実際にいたとしたら、今どこで何をしているかだ」
「分かったよ」明らかにため息らしい音が聞こえた。「ただ、あまりにも手がかりが少なすぎる。おまえの期待にそえないかもしれない。そこは覚悟しとけよ」
「ああ。それより休日に変な頼みごとしてごめん」
「今さらだよ」
そう言い終わると、電話は何の前触れもなく切れた。
それから一週間後、今度は酒井の方から電話がかかってきた。
「騙されたな。おまえ」
口調が何となくうれしそうだった。
「え?」
「調べてみたら、どうもおまえのばあさんのいとこってとこまでは間違いがなさそうだった。でも、当の本人、二階堂ミドリはおそらく死んでるんだ。二か月前に」
「おそらく?」
「役所的には失踪者扱いになってる。ほら、二か月前、大雨のときがあったろ? どうやら、そのときに流されたらしいんだ」
「誰か目撃者はいたの?」
紙がめくれる音がした。
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