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「孫が見てる。次男の娘だ。今年二十一になる。どうやら二人で畑を見に来ていたらしい。まぁ、第三者のおれからすれば、よりによってこんな大雨の日に行くことなかったのにって気がするが。農業やってる人間からすればやっぱり気になるもんなのかもな」
「その孫、背は小さい?」
「そこまで分かるわけがないだろ。これ以上のことが知りたければ自分で調べろ。これでも精一杯調べたんだ。もしかしたら、仕事以上に頑張ったんじゃねーかな。少なくとも、三万出すにふさわしい働きはしたつもりだよ。違うか?」
「もちろん、十分だよ。ありがとう」
このおれの言葉で少しは気持ちが和らいだのだろう。酒井はおどけるように言った。
「本当ならもっと感謝してほしいくらいだよ。だって、おまえ、偽の二階堂ミドリにだまされて金ぼったくられてた可能性だってあったんだぜ」
電話越しだから、酒井にはおれの表情が見えない。でも、もしお互いの顔が見える状況だったとしたら、あいつは不思議に思っただろう。
おれは笑っていた。ミドリさんの言ったことは本当だった。彼女はやっぱり死んでいたのだ。おれはなぜかそれでミドリさんのことを信じる気になっていた。
何週間かたって、ミドリさんの方から連絡があった。
「もしもし」
おれは休日で、しかも寝起きだったから、ぶっきらぼうに受話器をとった。
「もしもし、お久しぶりです、純一さん。二階堂です。二階堂ミドリです。覚えていますか?」
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