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ミドリさんがぼんやりとつぶやいた。見つめている窓の先には、ユズリハが緑の葉を茂らせている。
「ご存じなんですか?」
「ええ。若いころだけど何度か来たことがあるから。よく手入れしてあるわね」
「ばあさんがずっと枝切りしてましたから。孫の世話と庭の手入れが趣味だってよく言ってました。高いところは危ないからやめとけって言っても聞かなくて」
「初枝ちゃんらしいわね」ミドリさんはプッと吹き出した。「でもうらやましいわ。私と百合香はそんな関係じゃなかったから」
「え? あんなに仲がいいのにですか」
ミドリさんは寂しそうに言った。
「百合香と私が親しくなったのはごくごく最近のことよ。あの子が家出して来てから」
「家出?」
おれは思わずせきこんだ。そしてその先を訊くべきかどうか迷っていると、ミドリさんの方から話してくれた。
「もう一年くらい前になるかしら。ちょうどご飯作ってるときに、今にも泣きだしそうな百合香がうちのドア開けて言うのよ。ここに住ませて、って」
「びっくりしたでしょうね」
「そりゃあね。ここ十年くらい音沙汰が無かった孫が泣きべそかきながら立ってるんですもの。びっくりするわよ」
「それで、そのまま家出した百合香さんを受け入れてあげたんですか?」
ミドリさんは首を横に振った。
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