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「いいえ。最初は帰りなさいって言ったわ。当然でしょ。血がつながっているとはいえ、ほとんど見ず知らずの子どもを引き取ろうなんて、そうやすやすと決断できるものではないですよ」
「でも、最後は住ませてあげることにしたんでしょ?」
「だって仕方がないじゃない。昔のドラマみたいにコンクリート張りの玄関に座り込んで離れなかったんだもの。最後には私の方が折れたわ。分かったからこっちに来なさい、ひどい顔になってるわよ、って。それで百合香の両親に電話をかけて、もうてんやわんや」
その場面を思い出していたのだろう。ミドリさんの目が虚空を泳いでいる。
「だけど、なぜ百合香さんはあなたのところに?」
「私もあの子の父親、つまり私の息子と仲がよくないから」
ミドリさんはククッという悲しげな声を立てた。
「え?」
「敵の敵は味方。そういう論法なんでしょ、百合香は。バカバカしいわよね。私は息子のことを何とも思ってないのに」
「そうなんですか? だったら、仲が悪いわけじゃないんじゃないですか?」
「向こうが一方的に嫌ってるのよ」ミドリさんはおれの方に向かって白い歯とむきだしの歯ぐきを見せた。「信じられない、って顔してるわね。純一さん、世の中にはいろんな関係があるのよ。ものすごく仲の良い親子がいるように、仲の悪い親子だっているの」
「それは分かってますけど」
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