猿の葬儀

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「ごめんください」  玄関から透き通った声がした。弔問客だな、と思った。ばあさんが亡くなってからというもの人の出入りが絶えない。それは故人の人間関係の広さを示すものだから、世間的に見ればよいことなのだろうけど、そんな露骨なタテマエ上の人づきあいをわずらわしいと感じているおれにとっては、苦痛以外のなにものでもなかった。どうせやつらなんて、死んだばあさんのことなどどうでもいいと思っているのに違いない。ばあさんが死んだことよりも、おれが帰り際に渡した葬式饅頭のことで頭がいっぱいになっている連中ばかりなのだ。 「どうぞおあがりください」  そう言って、ドアを開けると女が立っていた。頭にかぶっている帽子も雪のように真っ白だったが、肌も負けずおとらず白かった。 「お初にお目にかかります。二階堂と申します。今回はご愁傷さまで」  女は帽子を取りながら頭を下げた。若い。おそらく十代後半から二十代前半くらいだろう。おれはその神妙な顔を見下ろしながら眺めていた。女性の平均的な身長に比べると十センチほど低い。 「いえいえ、わざわざありがとうございます。私、初枝の孫の純一と申します。失礼ですが、どちらさまでしょうか?」     
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